秘密の地図を描こう

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 あの機体がベルリンに現れた。
 その報告を耳にした瞬間、キラはデッキへと駆け出していた。
「焦るんじゃない」
 すぐに追いついてきたバルトフェルドがそう言ってくる。
「わかっています……でも、あれはただの虐殺です」
 あの機体が攻撃をしているのは民間人なのだ。だから、とキラは言い返す。
「わかっている。だからこそ、冷静になれ、と言っている」
 こういうときだからこそ、と彼は諭すように言った。
「怒りにとらわれるな」
 冷静さを失えば失敗するぞ、と続ける。
 確かにそうかもしれない。
「……はい」
 それでも、どうしても気が急いてしまうのだ。
 自分が少しでも早くたどり着けば、それだけ助けられる命が増えるのではないか。そう考えてしまう。
「大丈夫だ。ニコルがザフトに連絡を取っているだろう?」
 自分達が到着するまでは何とか持ちこたえているだろう。もちろん、避難誘導をしているはずだ。バルトフェルドはさらに言葉を重ねる。
「あのでかいのはお前でないと止められない。だから、他のことは俺たちに任せておけ」
 そう言われて、キラは小さくうなずいて見せた。
「特に、あれが出てきた後のことはな」
 今回だけはわいて出そうだ。そう彼は続ける。
「……それって、アスランのことですか?」
「他に誰かいるか?」
 他の連中は困らないだろう? と彼は真顔で言い切った。
「そうかもしれませんけど……」
 彼について、そこまで言うべきなのだろうか。それとも、と悩みたくなる。
「カガリに頼まれているしな」
 いろいろと、と彼は笑う。その笑みの裏に隠されている真意がいろいろと怖いと思うのは自分だけだろうか。
「お前の面倒はあいつに任せておけるし、オーブのパイロットも当てになる。だから、俺が適任だろう」
 情にほだされないから、と言われて納得していいのだろうか。
「お手柔らかにお願いします」
 とりあえず、アスランが逆ギレしない程度に……と呟いてしまう。
「安心しろ。手心は加えないから」
 やるなら、徹底的にたたきつぶす。そう言って笑った。
 彼は、口にしたことは間違いなくやる。
 つまり、彼が下手な言動をとれば、二度と立ち上がれないくらいたたきつぶされると言うことだ。
 それはちょっと、と思う自分はやっぱり、甘いのだろうか。それとも、と考えてしまう。
「まぁ、後方のことは任せておいて、お前はあれのことだけを考えておけ、と言うことだ。要するに」
 言葉とともに彼はキラの背中を叩いてくる。その瞬間、不思議と先ほどまでの焦りが消えていることにキラは気づいた。
 ひょっとして、アスランのことをだしたのはそういう意図があったからなのだろうか。
「おそらく、あいつも出てくるだろうな」
 自分達の予測が当たっていれば、とバルトフェルドはいつもの口調で告げてきた。視線を向けても、ひょうひょうとした表情が見えるだけだ。
「わかっています。二人にも約束しましたから、必ず連れ帰ります」
 少々けがをさせてしまうかもしれないが、とキラは言い返す。
「たたき落とせば、誰かが拾うから、安心しろ」
 即座にバルトフェルドがこう言い返してくる。
「多少の傷は妥協してもらえ」
「そうですね」
 とりあえず、保護するのが先決だ。キラもそう言ってうなずく。
「俺としては、いろいろと複雑だがね」
 ぼそりと彼は呟いた。それは、マリューとのことが関係しているのだろうか。
「まぁ、俺よりも複雑な感情を抱いている人間がいるからな」
 誰のことかは確認しなくてもわかってしまう。
「それも、無事にあいつの身柄を確保してからだな」
 まずは一発殴ってやるか。そう言う彼に、キラは小さくうなずくしかできなかった。


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最遊釈厄伝